◎大腸肛門機能障害について                                                

 

●大腸肛門機能障害とは?

 大腸肛門機能障害とは、便の通過・保持・排泄機能の障害であり、症状としては便秘・排便困難・便もれ等があげられます。そして、このような排便障害の方は、社会の高齢化と共に近年とみに増えてきています。特に、いつの間にか便がもれて下着を汚してしまうと言った「便もれ(便失禁)」は、高齢の女性に多く見受けられます。これは、肛門の筋肉が弱くなることによって起こることがほとんどですが、「目に見える異常ではない」ことや、「病院に行くのが恥ずかしい」といったことで、人知れず悩まれていても、これまでは治療の対象になることが少なかったのです。しかし、今後は、個人の生活の質(QOL)を高めるうえでも、早めの治療が必要となってきます。

 当院では、便秘や便もれに代表される排便障害に対して、大腸や肛門の働きの障害を詳しく調べるシステムを作り、そのデータを判定して正しい診断に基づいた治療が行えるようにしています。以下に大腸肛門機能障害をきたす疾患および当院での検査、治療法についてご紹介いたします。

 

                                            ※QOL: quality of life

 

●大腸肛門機能障害をきたす疾患

 発症する場所によって結腸に由来するもの、直腸に由来するもの、肛門に由来するもの、の3つに分けます。

 

@結腸に由来する排便障害

・慢性便秘……大腸の緊張や動きが弱まって排便がとどこおる為に起こるものが多く、排便困難になって肛門部に無理な負担がかかるので、痔を併発することもあります。

 

・過敏性腸症候群(IBS)……最近の社会ではストレスが非常に多く、それが神経のイライラとなって腸に伝わり腸管のけいれんを引き起こします。症状は腹痛、腹部不快感・膨満、便通異常などの腹部症状、便が硬い・コロコロ・細いなど便の形の異常・便通の異常から便秘型、下痢型、便秘・下痢交代型、ガス型、粘液型の5つに分けられます。

 

A直腸に由来する排便障害

・直腸脱……直腸が肛門の外に脱出する状態をいいます。直腸をまわりから支える組織が弱く延びてくることが主な原因です。力まないと便が出ない、力むと直腸脱が悪化するという悪循環を呈します。

・直腸膣壁弛緩症(レクトシール)……もともと直腸と膣との間の壁は薄いのですが、出産や加齢に伴い、これがさらに薄くなります。その結果、膣の方へ袋状に突き出すようになった状態で、排便しようと力んでもこの袋にたまってしまうために便が出にくくなります。

 

・先天性巨大結腸症(ヒルシュスプルング病)……乳児の時期にがんこな便秘を起こす先天性の病気です。この病気の子供には生まれつき直腸を動かす神経がありません。そのため、直腸部を便が通過できず、上の方にたまって結腸が拡がり巨大結腸となります。程度が軽い場合は、成人に持ち越されることもあります。

 

B肛門疾患に由来する排便障害

・痔核……肛門付近はもともと血管が豊富にあるところですが、静脈の中に血液がたまりやすくなると、それがだんだんふくらんできて塊状になってしまうのが痔核です。俗に言う「いぼ痔」とは痔核のことです。大きくなると肛門をふさいで、便が出にくくなります。

 

・裂肛……肛門上皮にできた裂け傷のことで、俗に「切れ痔」「裂け痔」とよばれます。強い痛みと出血を伴い、慢性になると肛門が狭くなって便が出にくくなります。

 

・痔瘻……痔瘻は肛門の近くに出来る膿の管です。肛門のまわりにあいた穴から膿が出ます。俗に「穴痔」ともいわれます。ひどくなると肛門が硬くなって、便がでにくくなります。根治するには手術が必要です。

 

Cその他の原因によるもの

・外傷……仕事中や家庭内で生じるもの、スポーツによるものなど種々ありますが、最近は交通事故によるものもあります。

 

・肛門挙筋症候群……括約筋が継続して収縮し、厚くなってきます。症状は、強い排便障害や痛みです。

 

・出産……これによる障害は大きく二つに分けられ、一つは括約筋自体が傷つくことによって起こり、あと一つは母親の骨盤と胎児の頭との間で陰部神経が圧迫されて傷つき、括約機能の低下をきたすものです。症状はいずれも括約不全ですが、後者は感覚障害を伴いやすく、しまりの悪さとしびれが併存することもしばしばです。

 

・括約不全……括約筋が切れたり薄くなることにより収縮力が低下するもので、例えば直腸脱によって括約筋が薄くなり、括約筋の力が弱まると、便もれ、ガスもれを生じます。一方、括約筋が切れることによるものがあり、これには外傷、出産、痔瘻やホワイトヘッド術後後遺症などがあります。

 

・高齢による括約不全……最近の高齢化により括約不全で困られる方が著しく増加しています。当院の研究によると男女ともに70歳をすぎると急に括約筋の力が低下します。若い人では、括約筋の力が低下していても表に現れないのですが、70歳を過ぎると括約不全の症状が現れてきます。これが高齢者に括約不全が増加している原因です。したがって青壮年期において、括約筋の力を低下させるような原因をつくることは、極力避けなければなりません。

 

 

●大腸肛門機能障害の検査

 大腸肛門機能障害を的確に治すには、症状を正確に把握することが不可欠です。そのためには、いくつかの検査を組み合わせて行い、その結果を総合的に分析して診断を下すことになります。以下にその主なものをご紹介します。

 

@肛門内圧検査

 肛門の締まり具合や絞める力を調べます。直腸肛門内に圧センサーを挿入し、安静時と力一杯肛門を絞めた時に得られる圧力を数値で表し判定します。

 

A直腸感覚検査

 排便反射の神経の働きが、正常であるかを調べます。直腸内にバルーンを挿入し、少しずつ膨らませながら検査します。

 

B排便造影検査(ディフェコグラフィー)

 排便時の直腸肛門の動きや形態の変化をX線的に調べます。肛門から便に見立てた造影剤を直腸内に注入し、透視台上のポータブル便器の上で、安静時、肛門引き締め時、排便時のX線撮影を側面から行います。

 

C大腸通過時間測定造影検査

 食物が便となって排泄されるまでの大腸内での通過の速さやその時の大腸の形や動きを調べます。検査前日の朝食・昼食・夕食ごとに指定されたX線不透過マーカーと少量の造影剤を飲んでいただき、検査当日朝に腹部X線撮影を行います。

 

いろいろと推定される病態に合わせ、以上の検査およびその他十数種類の検査を組み合わせて行います。

 

 

 

 

●大腸肛門機能障害の治療方法

 つぎに治療方法についてですが、上記のような検査を組み合わせて行い、病態を正確に判断することによって、より効果的に治療を行うことが出来ます。以下に主な治療法を紹介し、中でも当院で力を入れて行っている「バイオフィードバック療法」について詳しくご説明します。

 

@バイオフィードバック療法(機能回復訓練)

 括約筋のバイオフィードバック療法とは、括約筋をどのように動かせばよいかを自分自身で理解してもらう有効な訓練法です。括約不全の方が対象になります。肛門よりバルーンやセンサーを挿入し、肛門をしめたり、ゆるめたり、りきんだりしてもらって、その数値を本人と医師または検査技師が一緒になってモニターで確認しながら訓練していきます。訓練は一回約30分で、週に一回程度を続けて五回ほど行い改善の具合をみます。改善具合の少ない方はさらに継続して行います。この方法で当院でもこれまで多くの方が改善されています。

 

 

A保存療法

 病態を十分理解して頂いたうえで、基本的な生活療法、食事療法、排便指導を行います。心身医学的な指導としては、ケースワーク・各種心理検査・心理療法などがあります。

 

B薬物療法

 便の硬さの調節、腸管の動きの調節、過剰な腸管の動きの抑制、などを行います。

必要に応じては、多少の精神安定剤または抗うつ剤を併用することもあります。

 

C理学療法

 脊椎・陰部神経障害に対して近赤外線療法などの温熱療法で効果があることがあります。神経ブロックは、陰部神経痛などに用います。その他、鍼灸治療など種々あります。

 

D手術療法

 以上の治療法で効果がなければ手術を行います。括約不全では括約筋形成術を行いますが、部分的な括約筋の断裂では断端を縫合し、薄くなった部分を厚くしたりします。強度の場合は、他から筋肉を持ってきて補います。当院の場合は、大殿筋による括約筋形成(デベサ法)などを行い、術後にバイオフィードバック療法を加えて、筋力強化を計っています。